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見覚えのあるもの

シナリオの端々に、未来を見る。







使い古した紙の束を片付けていると、ひらりと落ちるものが視界にはいった。膝を折り、腰をかがめて拾い上げると見覚えのある筆跡に目許が綻んだ。
「…てっきり旅の途中でなくしたものと思っていましたが…。」
紙の束はそのまま廃棄するために箱に入れてしまったが、その紙だけは丁寧にまるで栞のように本の間に挟み込んだ。
そして時折本の間から取り出しては、薄く微笑む術法師の姿が時々垣間見えた。



「珍しいな、置き忘れか。」
研究室からリビングへと移動したクロモドは、テーブルの上に置き去りになっているアエルロトの書物を見た。最近調べるのが楽しいと、魔法書をよく読んでいるせいか、その本も魔法に関する書物だった。クロモドも参考にしたことのある書物であることに気づき、手にとって読もうとすると、ページの間に紙が挟まっているのを見つけた。
「栞か?」
そう思ってさっと開き手に取ると、それは栞ではなくメモ用紙のようなものであることを知る。しかもそれなりに汚れていて古い。手紙か何かだろうかと思ったが、よく見れば字と図形が書き込まれており、どこか懐かしささえ覚えるものにクロモドは見入った。
「これは…。」
懐かしさを覚えるはずだとクロモドは口元に笑みを浮かべて、描かれた図形を指でなぞった。
図形を書きこんだのはアエルロトで、文字を書き込んだのは紛れもない自分だった。あの頃はアエルロトを魔法剣士と聞いたままに信じていたから、なぜここまで術法に詳しいのかなど知る由もなかった。
「確かキャリバーだったか…。」
オボロスの力に魅せられた少年が使う術に対抗すべく、魔法と術法を掛け合わせた技でその術を防いだことは、もう遠い昔のことのように思えてくるのに、その時の語らいは今でも鮮明に思い出せる。
それまでお互いの力についてなど語ったことなどほとんどなく、アエルロト自身があまり自分のことを語らなかったせいと、他者とのかかわりと極力避けていたクロモドでは、それも致し方ないと言えた。けれど、あの日からお互いのことを少しずつ理解しあえたのではないかと、クロモドは当時を振り返った。
「あ、こちらにありましたか。」
そんな物思いに耽っていると、背後からアエルロトの声が聞こえた。
「ああ、この本か。」
クロモドの左手には本、右手にはメモ紙があるのを見て、アエルロトは歩み寄っていた足を止めてしまった。
「…見たんですか?」
「これか、懐かしいな。まさか残っているとは思っていなかった。」
あの旅の中で用の済んだメモなど捨ててしまったのだと、記憶の片隅にすら残っていたかどうかわからなかった。
「見つけたのは最近ですが。私も残っているとは思わず、見つけたときに取っておいてしまいました。」
そう言うアエルロトは少し恥ずかしげにも見えて、クロモドは首を傾げた。
「旅の中で埋もれていたものだと思っていたが、案外残っているものだな。」
本の間に紙を戻し、その本をアエルロトへと渡しながらクロモドは言った。その本を両手で受け取りながら、アエルロトはすぐに踵を返した。その様子にクロモドが伸ばした手は、アエルロトの肘を掴む。
「っ…。」
「どうした?」
「なんでもありません。」
そう言うアエルロトの顔は耳まで赤くて、とてもその言葉を信じることはできなかった。
「その顔で何を言う。」
「…我ながら女々しいと思ったんですよ。」
旅の途中で書き記した、共同作業の残り香など。道中はとっておいたつもりはなかったが、こうして手元に残していたのは事実で。見つかるような場所に置いてしまったのは失態だったと、アエルロトは俯いて表情を隠した。
しかしその様子に対しクロモドは首を傾げ、さらりと言い放った。
「女々しい?私は―そうは思わなかったが。思い出を、大事にしてくれているんだろう?」
「…っ、そう、ですね…。」
そう言って柔らかく微笑んだアエルロトの表情に、クロモドは大いに満足した。

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プロフィール

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サキ
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非公開
自己紹介:
サーバー:アテナ
遠征隊名:非公開
宛もなく流離う放浪者
クロモドとアエルロトが好き過ぎる人です

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