結界陣の箱庭
先生と放浪騎士と、ゆかいな仲間たち
風邪ネタ。
治してほしいのは私の風邪です。
額に手を当て、アエルロトは困った顔をした。手元には一通の手紙。季節の変わり目に無理をしたのがたたったと、眉を下げてももう遅かった。
「アリエル様!呼びましたか?」
そんなときに呼んでいたアンジェリナが部屋の扉をノックした。
「行かれないんですか?」
「この熱では行っても時間もかかりますし迷惑をかけてしまうでしょう。申し訳ありませんがこれを届けていただけますか?」
アエルロトが差し出したのは小さな包みと折りたたまれた手紙。
鳥へと変化したアンジェリナの足にそれを括りつけると、すぐ傍の窓を開けた。冷たい風が入り込んでくる。
「気をつけて。」
アエルロトの声を聞くと、美しい鳥は大きく羽ばたいて空へと舞いあがった。
重くたちこめる鉛色の空に、まるで唯一の希望のような輝きで飛んでいくアンジェリナをいつまでもアエルロトは見守っていた。
手紙を読んだ彼は呆れるだろうか、それとも怒るだろうか。
手紙を手に、ため息を吐く姿まで想像できてしまったことを、アエルロトは笑った。
「こんな風に行けなくなったのは初めてですね…。」
そう考えると、共に過ごす時間の多さを想った。一緒に旅をしていたころに比べればずっと実際の時間は減ったが、逆に密度は高くなった気さえして、こんな風に一人で過ごす時間がとても惜しく感じられた。
「わう?」
いつものように出向いたアルポンスは、遅れてやってきた美しい鳥の様子に首を傾げた。長い爪のような指先では、足に括られた包みを取ることはできず、アンジェリナも包みを取ってもらわないことには人型へと変化できず、アルポンスの頭上へと着地するしかなかった。頭に乗ったまま動かないアンジェリナに、アルポンスはそのまま村を横切って行った。
出迎えたクインシーが大声でクロモドを呼ぶまであと数十秒。
「風邪か…。」
アンジェリナは包みと手紙をクロモドが受け取ったのを見届けると、クロモドからの返事と包みを受け取ってすぐに飛び立った。
「時間を作るために無理をしたのではあるまいな。」
遠征隊にいたころから、彼は秘密主義なところがあった。それは今でも時折垣間見えることで、立場上は仕方がないと思っていてもどこか面白くない。額に指を当て、考えを振り切ると再び研究へと没頭し始めた。
何かに集中していないと、余計なことまで考えそうで。それはあまりにも自分らしくない。
「私としたことが…。」
言えば苦笑が浮かんだ。ふと視線を向ければ、アエルロトが書いた手紙がすぐそばにある。丁寧な字で書かれたそれは風邪をひいて来られないことを詫びる文面と、クロモドの身を案じる内容だった。それをあの空気が研ぎ澄まされた聖なる山の自室で書いていたのかと想像するに難くなく、法衣を着込んで仕事をする様まで思い浮かべてしまっていた。
「……。」
簡単に集中が途切れてしまい、クロモドは溜息をつく。すっかりあの術法師に骨抜きにされたものだと。
だがそれを喜ぶ自分がいて、
「早く治して来い…。」
小さな呟きだけが、その場に残った。
「この包みは…?」
「お薬だそうです。大魔法師様自ら調合なさったそうです。」
戻ってきたアンジェリナから受け取った包みに、クロモドがどんな顔をして手紙を読んだのかが想像できてしまった。
「アリエル様、早く元気になってくださいね。」
アンジェリナが差し出す水差しに、コップを差し出しながらアエルロトは軽く頷くのだった。
額に手を当て、アエルロトは困った顔をした。手元には一通の手紙。季節の変わり目に無理をしたのがたたったと、眉を下げてももう遅かった。
「アリエル様!呼びましたか?」
そんなときに呼んでいたアンジェリナが部屋の扉をノックした。
「行かれないんですか?」
「この熱では行っても時間もかかりますし迷惑をかけてしまうでしょう。申し訳ありませんがこれを届けていただけますか?」
アエルロトが差し出したのは小さな包みと折りたたまれた手紙。
鳥へと変化したアンジェリナの足にそれを括りつけると、すぐ傍の窓を開けた。冷たい風が入り込んでくる。
「気をつけて。」
アエルロトの声を聞くと、美しい鳥は大きく羽ばたいて空へと舞いあがった。
重くたちこめる鉛色の空に、まるで唯一の希望のような輝きで飛んでいくアンジェリナをいつまでもアエルロトは見守っていた。
手紙を読んだ彼は呆れるだろうか、それとも怒るだろうか。
手紙を手に、ため息を吐く姿まで想像できてしまったことを、アエルロトは笑った。
「こんな風に行けなくなったのは初めてですね…。」
そう考えると、共に過ごす時間の多さを想った。一緒に旅をしていたころに比べればずっと実際の時間は減ったが、逆に密度は高くなった気さえして、こんな風に一人で過ごす時間がとても惜しく感じられた。
「わう?」
いつものように出向いたアルポンスは、遅れてやってきた美しい鳥の様子に首を傾げた。長い爪のような指先では、足に括られた包みを取ることはできず、アンジェリナも包みを取ってもらわないことには人型へと変化できず、アルポンスの頭上へと着地するしかなかった。頭に乗ったまま動かないアンジェリナに、アルポンスはそのまま村を横切って行った。
出迎えたクインシーが大声でクロモドを呼ぶまであと数十秒。
「風邪か…。」
アンジェリナは包みと手紙をクロモドが受け取ったのを見届けると、クロモドからの返事と包みを受け取ってすぐに飛び立った。
「時間を作るために無理をしたのではあるまいな。」
遠征隊にいたころから、彼は秘密主義なところがあった。それは今でも時折垣間見えることで、立場上は仕方がないと思っていてもどこか面白くない。額に指を当て、考えを振り切ると再び研究へと没頭し始めた。
何かに集中していないと、余計なことまで考えそうで。それはあまりにも自分らしくない。
「私としたことが…。」
言えば苦笑が浮かんだ。ふと視線を向ければ、アエルロトが書いた手紙がすぐそばにある。丁寧な字で書かれたそれは風邪をひいて来られないことを詫びる文面と、クロモドの身を案じる内容だった。それをあの空気が研ぎ澄まされた聖なる山の自室で書いていたのかと想像するに難くなく、法衣を着込んで仕事をする様まで思い浮かべてしまっていた。
「……。」
簡単に集中が途切れてしまい、クロモドは溜息をつく。すっかりあの術法師に骨抜きにされたものだと。
だがそれを喜ぶ自分がいて、
「早く治して来い…。」
小さな呟きだけが、その場に残った。
「この包みは…?」
「お薬だそうです。大魔法師様自ら調合なさったそうです。」
戻ってきたアンジェリナから受け取った包みに、クロモドがどんな顔をして手紙を読んだのかが想像できてしまった。
「アリエル様、早く元気になってくださいね。」
アンジェリナが差し出す水差しに、コップを差し出しながらアエルロトは軽く頷くのだった。
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サーバー:アテナ
遠征隊名:非公開
宛もなく流離う放浪者
クロモドとアエルロトが好き過ぎる人です
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